ピンクの港②
「アキラは東京行くんだな。」
チラッとアキラの方を見たが、アキラは前方の波が揺れているのをなんとなく見つめていた。特に何の感情も表情からは読み取れなかった。
僕の方に視線を向けずにゆっくりとアキラは頷いた。絶妙な速度とタイミングで。長い時間を共有してきたからなのか、僕がアキラの返事を受け取ったことを、つまりアキラが僕の質問を肯定したことを、アキラが受け止めたことを理解した。
アキラが東京へ行く、それはアキラと僕が離れることを意味している。
半年くらい前から分かっていた事だけど、実際に別れるとなるとこういう感情になるとは解っていなかった。
僕は今、自分の気持ちとか感情に気がついて焦っている。
「こんな気持ちになるとは思わなかったな。」
アキラが僕の方を向かずに話し始めた。
「私、島のことあまり好きじゃなかったけど、いざ離れるとなったらとても寂しい気持ちでいっぱいなの。」
たぶん、僕は一生この島から出ない。それは旅行に行ったり本土のデパートへ出かけたりはするかもしれない。でも、僕は死ぬまでこの島に住み続けるだろう。
だからアキラの気持ちはよく解らなかった。その事を理解するには、あまりにも僕とアキラは違いすぎたのかもしれない。あるいは、誰かが誰かの気持ちを理解する事など、最初から無理な話なのかもしれない。